ちらちらと、街灯が夜の道をぼんやりと照らす。私は目の前でナイフを投げている人の目を見た。 その目はまるですべてを食らうような獣のよう。真っ赤な瞳は血をも思わせる。涙の色は赤色なのだろうか。 飢えたハイエナのように、目に入ったものはすべて獲物。狩る相手が決まれば動きはどんなものよりも早く、それでいて的確に狩る。 その姿を見たのなら、それが自分の最後、なのだ。


「毎日毎日。ホント綺麗に殺るよね」
か・・・」
「おっと。私にナイフ向けないでよ」
「・・・好きで向けたわけじゃない」


ナイフの血を払ったリゾットの周りには4、5体の屍。もう原型をとどめていないくらい血みどろだった。 一面血の海で、鮮やかだった赤は酸素に当たって黒くなりかけていた。その真ん中でリゾットは佇んでいた。 そして何を思ったのか、リゾットは私にナイフを投げてきた。これでも暗殺チームの端くれだ。とっさにそれを避けた。 しばらくして、ピリッと頬に小さな痛みが走った。指で触るとぬめりとした生暖かい感触がリアルに感じられた。
血、だ。


「何。突然」
「・・・いや。意味はない」
「意味がないなら投げないで。殺す気?」
「そうかもな」


これが本心で言ってるわけじゃないのを、私は重々わかっている。いまいち食えない男だと、つくづく思う。 一歩もその場から動こうとしないリゾットに、苛立ちを覚え、私はツカツカとヒールを鳴らして歩み寄った。 ようやく首と顔だけが私のほうに向いた。深い真紅の瞳が私を捕らえる。 一瞬、そんな目にビクリとして、歩くのを止めたが、しばらくするとリゾットはまた違う方向を向いていた。


「帰るわよ」
「断る。と、言ったら?」
「無理やりにでも、帰らせるけど?」


脅しをかけるように、スタンドを発動させる。リゾットは肩をすくませて「すまなかった。帰ろう」と、言った。 チームのやつらの前では凄く大人っぽいのに、どうして子供っぽい所を見せるのか。 まぁ、それがリゾットらしいと言えばリゾットらしいのだが。大人のような子供。 ピチャリ。と、水音にしては嫌に湿ったような音を響かせ、リゾットは2、3歩、歩いて私を見下ろした。


「血が出ているな」
「誰かさんのせいで、だけどね・・・!?」


ぐっと、肩と腕を掴まれたと思ったら、頬にざらりとした感覚が。
切った時とは別の痛みに、私は思わず顔を顰めた。そのまま、頬から首筋で、それはだんだんと下に降りていった。 舐めるんじゃなくて、舐め回すような感覚。エスカレートしていくその行為に、私はリゾットに鳩尾を入れた。 ふっと掴まれた力が弱くなった隙に、私は距離を十分にとってリゾットを睨み付けた。


「いい加減にして・・・!!」
「・・・・・・」


じっと、瞬きもせず、リゾットの周りだけ、時が止まったように動かなくなってしまった。 ふっと目線を外したと思うと、転がっている屍に目を向けた。嘲笑うような、軽蔑するような目で屍を、見つめ続けていた。


「あいつらの血は、薄汚いが。の血は綺麗だ」


そのまま殺して喰ってしまいたいくらいにな。
あぁ、気が狂っている。貴方も、食べられたいと思っている私も。




Beelzebub
08/04/06





企画「The Number Of The Beast」様に参加させていただきました。
楽しかったです。ありがとうございました^^